三月になると、北国ではまだ雪に閉ざされることはあるが、春の気配が日増しに濃くなり、草木の芽吹きが活発になる。下旬には桜の花が咲きはじめる地域も多い。
三月といえば雛祭、お彼岸といった行事とともに、卒業や転勤など生活に変化が生じることが多い時節。加えて、平成23年3月11日に発災した東日本大震災は、三月という季語の意味合いを一変させた。この句は、その大震災により一変し変質した三月を詠んだ作品。大震災後、その犠牲になった人の「遺品」は年を経ても、年を加えることがないという。被災地の人々の心に刻印された大震災の記憶に、読者を改めて立ち返らせる一句。『俳句四季』2025年3月号。