「水菜」はアブラナ科アブラナ属の1、2年草。春先に出回る。淡緑色のさっぱりとした味とシャキシャキした歯応えが特徴。
掲句は厨で「水菜」を切りながら、自らを振り返っての作品。厨に立つ前に涙で頬を濡らすような出来事があったのだ。だが、日々のルーティーンとして厨に立ったとき、既に涙は乾いてしまっていた。その時々の感情に溺れてばかりもいられない日常を、早春の季節感の中で淡々と明るく詠んでいる。切っている食材がほうれん草や小松菜だったら、この句のようなからりとした明るさは生まれない。『俳壇』2025年3月号。