ナプキンの扇ひろげて春を待つ 中戸川由実

「春待つ」は春を待ちわびること。厳しい寒さの中に春の兆しを感じる晩冬の頃、新しい季節を待つ気持ちが強まる。

掲句はフレンチやイタリアンなどのレストランで、ナプキンの扇を広げて料理が運ばれてくるのを待っているところだろう。結婚披露宴などの改まった祝いの席を想像してもいい。これから運ばれてくる前菜や食前酒を思い描きながら待っているのは、食べる瞬間にも劣らない愉しい時間である。作者はその食事前の浮き立つ思いが、春を待つ心そのものだと思い至ったのだ。目の前の素材を素早く一句に仕立てて、俳句が即興の詩でもあることを、改めて認識させられる作品。『俳句四季』2025年2月号。


コメントを残す