鳴かせたきもののひとつにいぼむしり 村上喜代子

蟷螂(かまきり)は鎌形の前肢で他の虫を捕食する。この虫に疣(いぼ)を噛ませれば疣が消えるとの俗説から「いぼむしり」との異名がある。気が強く、大きな相手にも立ち向かう

掲句は「いぼむしり」を鳴かせてみたいと詠む。俳句では蚯蚓(みみず)も蓑虫も鳴くことになっており、「蚯蚓鳴く」、「蓑虫鳴く」などという。これらは実際に鳴くことはないが、夕暮れや夜、はかなげな声で鳴いていると想像すると、秋の哀れが増すような気がする。肉食の蟷螂は、あまりに生々しく猛々しい存在であり、鳴くと想像しても余り秋の情趣は感じないが「いぼむしり」と表記されると、秋の夜長などに鳴かせてみたいものの一つに数えるのも悪くない。「いぼむしり」という言葉の語感が活かされている作品だ。『俳句』2024年12月号。


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