大陸を離れて久し虫の島 小川軽舟

俳句で「虫」といえば、昆虫の中でも、秋に鳴くキリギリス科・コオロギ科の虫のこと。立秋の頃からキリギリスやコオロギなど様々な虫が鳴き始める。秋めいてくる夜風の中で澄んだ虫の音を耳にするのは至福の一時だ。

掲句は様々な虫がすだく秋の日本列島を「虫の島」と表現して、悠久の時間の流れの中に浮かぶ日本列島を描き出した。今から2000年ほど前まで、日本はユーラシア大陸の一部だったが、大陸の縁が東西に引き裂かれ、日本列島の地殻が大陸から離れたという。大陸から離れた日本には独自の文化が花開いた。虫の音に風情を感じ、深みゆく秋の哀れを重ねて詩歌に詠んだのは、日本人独特の感性であり、文化である。「虫の島」には、伝統的に虫の音を愛でてきた日本人の住む島との意味合いもあるだろう。『俳句』2024年12月号。


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