引力の静けさを航く月の海 正木ゆう子

「月」は一年中眺められるが、単に「月」といえば秋の季語。空は澄んで、頭上の月が大きく地上に照りわたる。「月の海」は、澄んだ月が照らし出している海原。

掲句は「航(ゆ)く」との措辞から、夜の船旅を思いたい。デッキの上に佇むと、頭上の月が静かな海を照らしている。作者はその静かさの中で、月と地球の間に働いている引力を感じている。静かであればある程、その目に見えぬ力がありありと感じられたのだ。宇宙のダイナミズムを感じさせる大柄な一句。『俳句』2024年11月号。


コメントを残す