「根深汁」は葱汁ともいい、葱の味噌汁のこと。土を盛り上げて根を白軟化させた白葱(根深)を使う。関西より関東で好まれる食味だ。
掲句は詩人・俳人である作者の言語観が窺える作品。作者はまだ湯気を立てている「根深汁」を前にして、「老いらく」という言葉を反芻している。「老いらく」は年老いること、老年の意味だが、作者を含め多くの人は、「老いらく」といえば「恋」を想像してしまう。「老いらくの恋」という語が一般化して、想像力が型に嵌まってしまっているのだ。もともとは、戦後間もない頃、当時老境にあった歌人川田順が弟子の女性と恋愛・家出し、〈墓場に近き老いらくの 恋は怖るる何ものもなし〉と詠んだことから広まったものという。それはともかく、掲句の「や」には反語の意味合いがあるだろう。それでいいのですか?との世間に対する問いかけである。言葉が固定化し、想像力が型に嵌ってしまっては、詩に未来はないからだ。言語表現にたずさわる者を𠮟咤する一句と言える。『俳句四季』2024年11月号。