芒(すすき)、撫子(なでしこ)、吾亦紅(われもこう)はいずれも日当たりのよい草地に生える秋の草で、このうち芒と撫子は秋の七草に入っている。
掲句は「珠洲焼(すず)」の花瓶に、秋の野から摘んできた「すすき」「なでしこ」「吾亦紅」を挿したとの句意。室内に秋の野の風景が一気に広がり、華やぎと一抹の淋しさが入り交じる。古墳時代に朝鮮半島から伝わった須恵器をルーツとする「珠洲焼」の灰黒色の素朴な肌合いには、秋の草々の趣がよく調和ようだ。さらに、この句では、この度の能登半島大地震で多大な苦難を背負わされた「珠洲」の町やそこに住む人々のことが思われる。明示的には震災のことには何も触れていないが、この地に寄せる作者の並々ならぬ思いが潜められている作品。『俳句四季』2024年10月号。