「まくなぎ」はヌカカ、ユスリカ、ガガンボダマシなどの小さな羽虫で、夏、人の顔などに纏わりつく。湿度が高い日の夕暮れどきなどに、野道に出てくることが多い。蚊やゴキブリなどとともに、夏に出没する嫌われ者の一つ。
掲句は、纏わりついてくる「まくなぎ」を手で払いながら、傍らの人の話に耳を貸している場面。「話半分」は、物事は誇張して言い伝えられることが多いから、他人の話は半分ぐらい割り引きして聞くと、ちょうど本当のところをつかめるという意で、人生経験を積んだ人が大抵は持ち合わせている処世のための心の持ちようだ。「まくなぎ」の鬱陶しさと「話半分」という作者の半身の姿勢が絶妙に照応する。野球で言えば変化球の作品だが、「まくなぎ」という季語がよく活かされている。『俳壇』2024年10月号。