「まくなぎ」は、夏、人の顔などにまつわりつく小さな羽虫のこと。野道や林の中を歩いていて「まくなぎ」に付きまとわれるのは鬱陶しい。まさにこの世の修羅という感じだ。
掲句は「まくなぎ」にまつわられながら、その真っ只中で誰かとすれ違ったという。「まくなぎ」から早く抜け出したいと誰もが急いで歩み去ろうとする。その最中に誰とすれ違おうと、立ち止まることはないし、声を掛け合うこともない。人と人がすれ違うタイミングとしては最悪と言っていい。嫌われ者の「まくなぎ」が、活きて使われている作品である。『俳句』2024年8月号。