小品の祐三を掛け夏館 藤田直子

「夏館」は夏らしい趣のある邸宅のこと。和よりも洋の趣で、構えも大きなものをいう。

「夏館」といえば、年代物の調度類や庭に向かって開かれた大きな窓、デッキ、卓上の花瓶など、数限りない素材が目につくだろうが、掲句は、それら一切を省略し、壁に掛けられた「小品の祐三」に焦点を絞った。自ずから俗塵を離れた館内の雰囲気が読者に伝わってくる。なお、「祐三」は大正・昭和初期の洋画家佐伯祐三のこと。画家としての短い活動期間の大部分をパリ等で過ごし、三十歳で客死した。パリの街角、店先などを独特の荒々しいタッチで描いたものが多い。『俳句四季』2024年7月号。


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