初夏は新緑の頃から梅雨に入る前頃までをいう。一年のうち最も安定した気候であり、清々しい空気を胸いっぱいに吸いたくなる季節。
掲句は初夏の海を前にして、風にのってくる潮の香を「分娩室の匂ひ」と断定した作品。その断定に、永年小児科医であった作者の日常や経験が活きている。分娩室は緊張感の高い非日常の空間であって、決して安らぎの空間ではないが、そこにはきっと生まれてくる嬰児の匂いや母体の羊水の匂いなどが満ちていることだろう。それは原初の海原を想起させる匂いなのではなかろうか。『俳句』2024年7月号。
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