追伸と書いて春愁かと思ふ 今瀬剛一

「春愁」は春最中に感じる物憂い哀愁のこと。軽いぼんやりとした春特有の憂鬱な感覚。

掲句は手紙の本文を書き終えて、本文とは別の内容を書き足すために文末に「追伸」と記したとき、ふと漠とした憂鬱や哀愁を覚えたとの句意。その感覚は、「春愁」といえるかどうかも定かでない淡いものだった。「かと思ふ」との下五は、作者の胸中に漂うその淡々とした思いを表している。春最中に誰もが感じる瞬時の感覚を確かに捉えた一句だ。『俳句界』2024年6月号。


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