春の月は大きく重たげで、橙色を帯び、輪郭も滲んで、他の季節にはない柔らかさがある。
掲句は春月を見上げていて、「通ひ婚」が普通の婚姻形態だった平安の世の男女に思いを馳せての作品だろう。「通ひ婚」は男女が同居せず、夫または妻が時々相手の住まいを訪ねて何日か暮らすことで、現代でも週末ごとに会う週末婚など、「通ひ婚」の関係にある男女も存在する。だがこの句から思い浮かぶのは古来からの「通ひ婚」である。春月の潤いのある光が、通っていく男や女を柔らかく照らし出す。『俳句』2024年6月号。
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