春隣いのちの香あるものを食べ 橋本榮治

冬も終わりの頃になると寒さの緩む日もあり、日差しや鳥の声、木々の姿などに春の気配が感じられるようになる。待ちに待った春は、すぐそこまで来ている。

掲句は春が近づく頃、「いのちの香あるもの」を食べたという。春の香りのするものといえば、芹や蓬、独活などの山菜が思い浮かぶが、必ずしも山菜に限る必要はない。茹でたての白子(しらす)や桜蝦にも春の香りがするだろうし、新海苔を焙ったときの香ばしい香りも、春の香りと言えるだろう。それらを限定せずに「いのちの香」と表現したところに、春を待つ心が紛れもなく表れている。『俳句』2024年4月号。


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