桜は花の中の花。古来より詩歌に歌われ、日本人に愛されてきた。全国に自生し、また、公園などに植えられる。その時季になると、薄紅や白い花が春の野山を染める。
掲句は、〈この世をば我が世とぞ思ふ望月の欠けたることもなしと思へば 道長〉を本歌として換骨奪胎した作品。本歌取りは和歌や連歌などで、古歌の語句・趣向などを取り入れて作歌新古今時代に盛んに行われたが、俳句でも稀に見掛けることがある。知的な言語遊戯の側面ばかりが目につくようだと、成功したとは言えないが、掲句は桜どきの気分を的確に形象化して成功していると思う。咲き盛る桜を前にした、現世も来世もない明るさが描き取られている。『俳句』2024年4月号。