龍天に登り消しゴムかす残る 小林恭二

「龍天に登る」は中国の古代伝説を起源とする空想的な季語。龍は想像上の動物で、春分に天に登り、秋分に淵に潜むと信じられた。陽春の頃、天に登り雲を起こし雨を降らせるとされる。

掲句は「龍天に登る」との壮大な空想的季語に、手元の消しゴムのかすを取り合わせた作品。紙に文字を書いては消す日常のひとコマ。紙に記した文字は消えて、机上に残っているのは消しゴムのかす。折から雨を降らせそうな雲が空を覆って、春雷が轟いている。「龍天に登る」という悠然たる天地自然の運行と比べると、日々の人間の営みの微小さが思われる。『俳句四季』2024年4月号。


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