「花冷え」は、桜が咲く頃、思いがけなく薄ら寒い日が戻って来ること。
掲句は泥絵具を指で溶くときの感覚を、花冷えの季感の中で浮かび上がらせた作品。泥絵具は、山から採掘した土を精製して不純物を取り除いた後に板状に干したもので、日本画に用いる。板状の泥絵具を溶くには、よくすりつぶしてから、膠液を加えて指でよく練るという。絵に関しては門外漢でそうした経験のない私にも、泥絵具が指についたときの感覚や胸中に広がる微かな華やぎがまざまざと感じられるのは、「花冷」という季語の的確さによるもの。『俳句四季』2024年4月号。