冬すみれ一会といふは過ぎてこそ 野中亮介

「冬菫」は、春に先駆けて咲く菫のこと。よく晴れた日に、日当たりのよい斜面などに咲いているのを見かけることがある。

掲句は、ある人との「一会(いちえ)」を思い返しての作品。「一会」は、法会や茶会を指す場合もあるが、ここでは、一期一会ともいうように、ある人との生涯一度の出会いのこと。だが、会っている最中は、それが「一会」とは思いもしなかったのだ。あの時に会ったことが「一会」だったというのは、過ぎ去って初めて気づくこと。それも、命に限りある人間のこの世における厳粛な真実だろう。『俳句』2024年3月号。


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