一音の鳴らぬ鍵盤鳥ぐもり 福神規子

「鳥曇り」は雁や鴨などの渡り鳥が、春、北へ帰る頃の曇り空のこと。渡り鳥が北を指して飛び去った後には、どんよりと曇った空が残される。

掲句は「鳥ぐもり」の頃の一抹の空虚感、寂しさを、鍵盤の一つが鳴らない楽器によって浮かび上がらせた作品。指で押しても鳴らないキーがあるというのは、ピアノやオルガンを戯れに弾いているに過ぎないとしても、どこか物足りない感じがするものである。そんな時の心の隙間に、春の物憂い哀愁が入り込んでくるのだ。『俳句四季』2024年3月号。


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