百千鳥朝寝のうちも命減る 高橋睦郎

「百千鳥(ももちどり)」は、春、山野で多くの小鳥が鳴き交わすさま。春暖の季節を迎えた鳥たちの歓びが感じられる季語だ。

掲句の「百千鳥」「朝寝」はいずれも春の季語だが、「百千鳥」を主たる季語として鑑賞したい。朝の寝床で、沢山の鳥の鳴き声に囲まれて、作者は自らの「命」を思っている。四辺が春を迎えた歓びの声に満ちていればいるだけ、作者の思いは、刻々と減っていく自らの「命」の行く末へと及んでいく。光に対して闇があるように、春の歓びの中にいて死を思う。「命減る」との端的な表現が、作者の透徹した自己認識を示す。『俳句』2024年2月号。


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