芭蕉の推敲(21)

雪薄し白魚しろきこと一寸 芭蕉                            貞享元年10月、『野ざらし紀行』の旅中、伊勢桑名の東郊、浜の地蔵堂での作。芭蕉は手ずから蛤を拾い、白魚を掬ったという。白魚は春の季語だが、この句の「白魚一寸」には冬の季感があろう。杜甫の詩句「白小群分命、天然二寸魚」を踏まえ、二寸よりさらに小さな幼魚を一寸と表現した。初案「雪薄し」はそのときの実景だったと思うが、雪の白と白魚の白とで印象が分裂している。

明けぼのや白魚しろきこと一寸 芭蕉                       『笈日記』によれば、初案の「雪薄し」について、芭蕉は、「此五文字いと口おし」と言って「雪薄し」を「明ぼのや」に直した。当日雪が降っていた事実を省略し、白魚の白に焦点を当てた。あけぼのの薄明りの中で、白魚の鮮烈な白さが一読目に浮かんでくる。山本健吉はこの句を、紀行中の句の白眉といっている。句の焦点をどこに定め、何を省略するかについて、学ぶ点の多い推敲だ。

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