螢火や生者に見ゆるものわづか 西村和子  

螢(ほたる)は、夏の宵、水辺の闇を明滅しながら飛ぶ。螢火の冷たい光を見ていると、忙しない日常から離れて、未生滅後のことに思いは広がっていく。

掲句は、螢の飛ぶ闇に囲まれて、生きることの意味や限界を新ためて自問している作品。「見える」は、この句では単に視覚に映るというよりも、認識するとの意味合いだろう。日頃何でも物が見えると思って生活しているが、実は人が認識できるのは、この世のごく一部分に過ぎない。大部分の事象は目に見えないまま一生を終わるのだ、と。『俳句』2023年11月号。


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