芭蕉の推敲(12)

椎の花の心にも似よ木曾の旅 芭蕉                                『韻塞』には、「木曾路を経て旧里に帰る人は、森川許六と云ふ。…歩行若党の黒き羽織の裳裾は風に翻へしたるありさま、この人の本意にはあるべからず」との長い前文を付してこの句が掲載されており、元禄6年5月、門人森川許六が江戸から木曾路を経て彦根に帰るときに与えた送別句であることが分かる。仕官公務の旅ながら風雅の侘びを忘れるなとの許六に対する呼びかけの形をとった句。

旅人の心にも似よ椎の花 芭蕉                      掲句は、『続猿蓑』に収められた改作。「許六が木曾路におもむく時」との簡明な詞書が付されている。椎の花への呼びかけの形をとり、初案のような訓戒の意は和らげられた。旅人とはこれから旅に出る許六のこと。実際には許六への呼びかけの意は句の後ろにひそめられている。句の意図が露に出過ぎると、内容が底の浅いものになるというのは、現代の実作者も経験することだろう。

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