蛤に今日は売り勝つ若菜かな 芭蕉 元禄6年歳旦の吟。真蹟懐紙に、「七草」との詞書を付して残されている。若菜が景気よく売れる江戸市中の風景。若菜は、正月7日の七草粥に入れる春の七草の総称。正月には吸い物などとしてもてはやされる蛤も、7日に限っては、若菜の売れ行きには敵わないというのだ。蛤は、芭蕉が住んでいた深川の名産でもあった。
蒟蒻に今日は売り勝つ若菜哉 芭蕉 『俳諧薦獅子集』には掲句のように改案されて収められた。初案、改案とも二物を比較している点では同様の着想だが、初案の「蛤」と「若菜」がいずれもハレの食材であるのに対し、改案の「蒟蒻」と「若菜」は対照的な食材であり、蒟蒻という食材のもつ庶民性・日常性が、若菜のもつ雅の印象を浮かび上がらせて効果的だ。蒟蒻は芭蕉の好物でもあった。市井の些事に情景を探った軽みの句。