空海の袈裟の色なり熟れ麦は 岸本由香

晩秋初冬に蒔かれた麦は、翌年晩春の頃には青々とした穂を出し、5、6月頃には黄熟して刈り取られるまでになる。

掲句は一面の熟れ麦を眼前にしながらの作品。熟れ麦から「空海の袈裟の色」に想念を飛躍させたところが面白い。四国や吉野の山野をめぐりながら修行したとされる空海が、ときに辿ったと思われる初夏の麦畑の光景が彷彿する。「熟れ麦は」とのやや不安定な下五の措辞も、作者の心の揺らぎを感じさせて効果的だ。『俳句』2023年10月号。


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