空蟬を握り潰して変声期 白濱一羊

空蟬(うつせみ)は、蝉が地上に出てきて脱皮を行ったあとの殻。盛夏の頃、木の幹や草などに殻を残して、沢山の蟬が樹上に鳴きしきる。

掲句は声変わりの時期にある少年を詠んだ作。変声期は思春期でもあり、少年が青年へと成長していく一つの節目。その少年がなぜ空蟬を握り潰したのかは読者の想像に委ねられている。何らかの心の鬱屈がそうさせたとも読めるし、単なる手慰みなのかも知れない。いずれにしても、「握り潰す」との行為の激しさは、大人になろうとする一人の少年の心の波立ちを浮かび上がらせる。なお、下五の「変声期」は、「変声期の少年」を省略した俳句特有の省略法。『俳句』2023年10月号。


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