舌出して貝に貝寄る秋の暮 大谷弘至

「秋の(夕)暮」は、『枕の草子』以来その寂しげな風情が賞されてきた伝統的な季題。

掲句は、伝統的な季題の情趣に凭れるのではなく、それを逆手にとって、「秋の暮」の貝の寂しさを自在に表現した作品。貝が舌を出して他の貝に寄っていくことなど、実景としてはありそうもないが、一読貝の気持ちが分かったような気になるのも、「秋の暮」という言葉のもつ力だろう。『俳壇』2023年10月号。


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