秋風は秋に吹く風一般をいう。景色は夏の様相を呈していながら、吹く風に秋の気配を感ずる初秋の風から、木の葉を散らし日ごとに冷気を加えてゆく晩秋の風まで、秋風に含まれる。
掲句は鏡台の前に座った女性(おそらくは作者自身)の眉を引く動作を描きながら、「秋の風」のもつ蕭然としたもの悲しさをどことなく感じさせる作品だ。鏡に映っているのは、夏痩せて少しやつれた顔であり、加齢による容貌の衰えは隠せない。だが、人前に出る以上は身だしなみということを疎かにせず、出掛ける前にはきりりと眉を引く。作品に具体的な描写はないが、そんな年配の女性が思い浮かぶ。秋の風という季語のもたらす効果だろう。『俳壇』2023年10月号。