雲一切流し切つたる月今宵 抜井諒一

「月今宵(つきこよい)」は中秋の名月のこと。陰暦8月15日の月である。月下に佇めば、月光が秋草を照らし出し、虫の音が競い合うように聞こえてくるだろう。

掲句は中秋の名月の夜空を描き出す。「雲一切流し切つたる」の主語は月である。月が、自らの力で、名月の夜の妨げになる雲を流し切ったというのだ。科学的にはあり得ないのだが、こう表現されてみると、自然のダイナミズムを感じさせるところが表現の妙である。『俳壇』2023年9月号。


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