単に蓬といえば、餅草を作るために若葉を摘む頃の蓬。萌え出た頃は香しく可憐だった蓬も、夏になると茎は木のように固く猛々しくなり、その茂るさまは荒れさびた感じが強くなる。農地でも空き地でも、放置するとたちまち丈を伸ばして蔓延る。
掲句は荒れさびた郊外での散歩の場面だろう。「道」も「径」もミチと読むが、「径」は細く狭い道や近道を指す。山野や畑の中の細々とした在るか無きかの径が、皆、きちんと舗装され人やモノが行き交う道路につながっているというのだ。散歩中ふと我に返り、径のような私的で密やかな空間ではなく、一歩行者として振舞わなければならない道に出たことを改めて認識している趣もあろうか。『俳壇』2023年8月号。