木登りに投げてやらうか缶ビール 石田郷子

ビールは四季を通じて飲用されるが、冷やしたビールをグラスに満たし、一息に飲む爽快さは夏のもの。左党にとって、暑い日の日暮れどき、冷えた缶ビールを一気に喉に流し込むのは、雑念を忘れさせる至福の瞬間だ。

掲句は、木登りをしている人に缶ビールを投げてやろうかと、自らに問い掛けているとの句意。誰が何のために木登りをしているのかなどと問う必要はあるまい。一切の状況説明は省略されているが。夏という季節のもつ解放感や、缶ビールを投げて渡すような作者とその人の間の親密さが伝わってくれば足りる。何の構えもない、異色の楽しい作品だ。『俳壇』2023年8月号。


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