葉桜や五十代なる忙と閑 押野裕

葉桜には、既に散ってしまった花を惜しむ思いと、桜の若葉の清々しさを愛でる思いが入り交じる。後ろを振り返ろうとする心と、前を見て進もうとする心が交錯する。

掲句の葉桜には、過ぎ去った花時を惜しむような情緒の湿りはない。葉桜に差す初夏の光はからりとして清々しい。五十代といえば仕事でもプライベートでも様々な役割を担い、それに応えていかなければならない年代だ。それでも、多忙な生活の中でふと「閑」のひと時が訪れることがある。そんな時は、立ち止まって己の来し方行く末を思うのもいいし、好きなことに没頭するのもいいだろう。人生の充実期に、前を向いて歩んでいる人の息遣いが聞こえてくる作品だ。『俳句』2023年7月号。


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