鮎はアユ科の淡水魚。姿が美しく、香気をもち、味が良いので古来食用として珍重されている。塩焼きのほか、鮨や膾にして食べる。
掲句は、鮎の塩焼きを内臓ごと食べる場合だろう。臓(わた)うるかと呼ばれる、鮎の内臓を塩漬けにした料理を想像してもいい。いずれにしても、鮎の腸(わた)の苦みが口の中に広がっていく。それは、かつて不承不承聞かされた父の小言のようだ、と。苦いが、得も言われぬ旨味と紙一重の極上の苦み。齢を重ねるにつれて分かって来るそのよろしさ、有難さ。父という存在もそのようなものだった。『俳句界』令和5年7月号。