火取虫は、夏の夜の火や灯火に吸い寄せられるように飛び来る虫のこと。金亀子(こがねむし)や蜉蝣(かげろう)、蛾などがやってくる。特に家の中に舞い込んだ蛾が、電球にぶつかって鱗粉を散らすさまは印象的だ。
掲句の火取虫は灯火に飛んできた蛾を詠んだものだろう。不注意で開けてあった窓から灯火をめがけて蛾などが舞い込んでくることはよくあることだ。取り立てて大きい蛾ではないが、火に近づいたとき後ろの壁などに大きな影を落としたのだ。「巨」の一字が、その時の作者の驚きをよく表している。からりとした夏の夜の解放感が感じられる作品。『俳句』2023年7月号。