「夏木」は、夏になって鬱蒼と枝葉を茂らせた一本の木をいう。複数の木々を一体として捉えるときは「夏木立」。夏の盛りの生気あふれるイメージがある。
掲句は、森の中の一木に熊の爪痕が残されているという。「ざつくり」は、深くえぐれたり、大きく割れたりするさまを表す擬態語で、一読、熊の爪により幹を無惨に抉られながら、そこに立ち続ける夏木の鬱然たる様が思い浮かぶ。一本の夏木に焦点を絞った作品だが、自ずと熊も生息している森の豊かさ、奥深さを感じさせる。ただし、近年の人と熊の共存困難な状況を思うと、「夏木かな」の下五がいささか物足りなくもある。『文藝春秋』2023年7月号。