通し鴨は何らかの理由で春北方へ帰らずに、日本に残っている鴨。営巣し子を育てるものもあるが、そうでないものもある。
掲句は、ひっそりと一羽で日本の夏を過ごす通し鴨を想定したい。雨の輪がこの世のすべてとの措辞は、雨の水辺に佇む作者のそのときの感受だが、作者はそれを通し鴨に感情移入した。作者にとっても、通し鴨にとっても、この時、雨の輪がこの世のすべてだというのだ。降り続く雨、対岸がけぶるほどの広々とした湖面などが想像できるが、それとともに、営巣せずに日本に残っている通し鴨の、どこか人目を避けて隠れ住んでいるような印象も浮かびあがってくる。『俳句』令和5年度7月号。



