袋角南大門を出で来たり 松尾隆信

「袋角(ふくろづの)」は、毎年、春に鹿の角が根元の部分から落ちた後、新しく発育を始めた角のこと。皮膚をかぶって、それが袋に似た状態であるところから、このように呼ばれる。

掲句は、袋角の牡鹿が、東大寺の南大門を出てきたとの句意。南大門は築千年の歴史を誇る国内最大の山門であり、奈良のシンボルでもある。奈良に住む人々や参拝者ばかりでなく、鹿にとっても、日頃親しんでいる建造物なのだ。その大門と、毎年生え変わる角を持ち歩く鹿の取り合わせには味わいがある。奈良時代から続く人と鹿との関わりにも、一読想像が広がる。『俳句』2023年6月号。


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