「春愁」は、生気のあふれる春の最中に感じるそこはかとない愁いのこと。個人的には、年齢を重ねるにつれて、春という季節の溌溂とした生気に、自分の心と身体が追い付かないことから、軽い違和感や物憂さを感じることが増えているが、そんな感覚も「春愁」といえるのだろう。
掲句は、「春愁」のフラミンゴを詠んだ作品。フラミンゴは西アジアなどに野生として生息しているが、動物園で飼育されているお馴染みの水鳥だ。そのフラミンゴが見物の人々の前で、長い首を曲げて嘴を羽に埋めているのだ。檻の中での生活に退屈しているようにも、また、眠気を感じているようにも見える情景だが、作者はそこに「春愁」を感じ取った。それは、作者自身が自らに感じている「春愁」の反映でもあるだろう。春の日中の、余りひと気のない動物園の物憂い感じが表れている。『うろこ雲』所収。