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俳句の庭

  • 芭蕉の推敲(27)

    11月 24th, 2023

    稲の香や分け入る右は有磯海 芭蕉                              元禄2年旧暦7月15日、『おくのほそ道』の旅中の作。真蹟草稿にある句形。越中・加賀国境の倶利伽羅峠辺りで、眼下はるかな富山湾を眺望しての作か。「有磯海」は放生津から氷見辺りまでの海を指す越中の歌枕だが、曾良の『随行日記』によれば、芭蕉は有磯海へは行かなかった。右手に歌枕の海を遠く望みながら、行かずに通り過ぎようとしている旅人芭蕉の愛惜の気持ちも感じられる(山本健吉)。

    早稲の香や分け入る右は有磯海 芭蕉                       『おくのほそ道』では「早稲の香や」と推敲し、「かゞの国に入」との地の文に続いてこの句が掲載されている。「稲」→「早稲」への推敲により、稲田を渡る初秋の風の明るさや実り始めた稲の匂い、海原のきらめきが臨場感をもって迫る作品になった。「有磯海」は越中の歌枕だが、加賀、越中、能登はいずれも当時前田百万石の領内であり、この三国を合わせて加賀の国といったところに、大国に対する芭蕉の意識が表れている。この句については、『三冊子』(赤草紙)で、大国に入りて句を詠むときの心得の例として挙げられている。古来の歌枕「有磯海」を詠み込むことで、大国加賀への挨拶としているのだ。訪れる地霊への挨拶として句を作るという芭蕉の心情は、現代の俳人には失われてしまった心の在りようだろう。

  • 父情とは暗がりに立つ一冬木

    11月 24th, 2023

    冬木は、落葉樹、常緑樹のいずれにもいうが、特に葉を落とし切った落葉樹には冬木らしい趣がある。

    掲句は近くの疎水べりの枯桜の趣に晩年の父の面影を重ねてできた一句。「父情」は一般的な用語ではないが、〈冬ふかむ父情の深みゆくごとく 龍太〉が念頭にあって思い浮かんだ言葉。生前の父の心を十分汲み取れなかった自分自身を、反省を込めて振り返る思いもあった。平成29年作。

  • 梔子の実

    11月 24th, 2023

    梔子(くちなし)はアカネ科の常緑低木で庭園や街路に植えられる。梅雨の頃芳香のある白い花が咲いた後実を結ぶ。実は、六縦稜のある黄紅色の楕円形。熟しても開裂しないため「口無し」の名がついた。古くから衣や食品の染料及び薬用として用いられた。お節料理の栗きんとんの染料としても使われる。

  • 榠樝(かりん)

    11月 24th, 2023

    榠樝は中国原産のバラ科の落葉高木。秋に実る果実は黄色で球形又は長楕円形。香気が強いが生食には向かず、砂糖漬け、果実酒、咳止め薬、のど飴などになる。

  • 雲ひとつなし柚子坊と目が合ひて 陽美保子

    11月 23rd, 2023

    芋虫の中でも揚羽蝶の幼虫はユズ、カラタチなどの柑橘類の葉を食べるので柚子坊ともいう。初め黒色で、成長すると緑色になる。

    掲句は柚子坊と目が合ったという、ただそれだけのことを言いながら、秋晴れの清々しい空の下での生き物同士の交感を描いた作品。柚子坊には確かに黒い斑点のような目が二つある。柚子坊がその時人間をどのように認識したのかは問うまい。人間と柚子坊という二つの生き物が目を合わせて挨拶を交わしたのだ。『俳壇』2023年12月号。

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