角切られたる満身に月夜かな 龍太
「雲母」平成3年1月号。
「鹿の角切」は奈良の春日大社の神鹿の角を切る行事。寛文12年に鹿の角による事故を防止するため、奈良奉行の命によって始まった行事であるという。単に「角切」「角伐」ともいう。
掲句は奈良旅吟。角を切られた鹿の全身が月光に浮かび上がっているのだ。鹿を柵に追い込んだり、勢子が追いかけて捕らえたり、神官が鋸で挽いたりする激しい動きは昼間のこと。今は静かに澄んだ月光が鹿や伽藍を包んでいる。「鹿」と敢えて表現しないところに表現の妙を感じる。
句集には収められていない。かつて晩秋の奈良で目にしたことを回想しての作だろう。