サン・ポール・ド・ヴァンスは、コートダジュールに点在する鷹の巣村のひとつ。村の真ん中に、サン・ポール・ド・ヴァンス参事会教会があった。古くから、村の人々の信仰と生活の拠り所として存在してきたことが窺える。アーチの高い天井の内部には、観光客が集まる村中の賑わいとは隔離されたような、素朴で荘厳な祈りの空間があった。

下の写真はプロヴァンスの鷹の巣村ゴルドの聖フィルマン教会。フィルマンは初期キリスト教の布教者で、殉教の後、この地の信仰の象徴になった聖人の名だという。この教会もやはり村の中心部に位置し、中世の教会の跡地に18世紀に再建された。ロマネスク様式の厚い石造りの壁が特徴で、内部に重厚な雰囲気をもたらしている。主祭壇には、聖フィルマン像とマリア像が並んでいた。プロヴァンスの強烈な日差しの中を歩いてきた私たちには、ほっと一息つける癒しの空間だった。

下の写真は、プロヴァンスのリュベロン地方にある鷹の巣村ルシヨンのサン・ミシェル教会。12世紀に建てられ、その後何度も修復された。教会は村の高台に位置し、村の象徴的な建物の一つ。かつては外敵からの防御機能も果たしていたという。炎天を歩き回った私たちは、ここでは石の冷たさと静けさに包まれてひと時を過ごした。

下の写真はプロヴァンスのソー村の中心部にあるサン・サテュルナン教会。起源は12世紀に遡るが、その後たびたび修復が行われてきたことは他の教会と共通する。ステンドグラスを透した柔らかな光線が、主祭壇の聖母子像に降り注いでいた。戸外のラベンダーの香りが教会内部にも届いて、香しい祈りの空間を作り出していた。

他にも多くの教会や大聖堂を訪れたが、本稿での教会等の紹介はこの辺りで終わりにしようと思う。
私のようなキリスト教信仰とは無縁の人間でも、教会内部に足を踏み入れると、心が落ち着いて、それぞれの地に流れてきた歳月に思いを馳せる気持ちになったのは、不思議な体験だった。確かに教会内部には、中世以来地元で生涯を送った人々の生と死、愛と信仰が、目に見えない形で積み重なっていた。砂漠の中のオアシスのように、旅中の私たちは時々教会に立ち寄って、そのような空気に触れながら気持ちをリセットしていたように思う。