南仏紀行(13)

リヨン市内にはマルシェ(marché)が何カ所かあるが、今回訪れたのはローヌ、ソーヌ両川に挟まれたクロワ・ルース地区のマルシェ。プラタナス並木の通りの両側に1kmにわたって野菜、果物、パン、花、オーガニック製品などを売る店が並ぶ。手作り雑貨や織物小物の店も見かけた。特に果物売り場は、桃やプラム、桜桃、林檎、木苺などが、咲き競う紅の花々のように周囲に華やぎを広げていた。店主と顔見知りの客との間の親しげな会話を小耳に挟みながら、私たちはリヨン新市街の中心部へ向かった。

新市街のオペラ座、リヨン市庁舎からベルクール広場にかけてのエリアは、銀行、証券取引所、商工会議所、宝飾店、ホテルなどが立ち並び、商業と金融の都としてのリヨンの顔となっている。新市街は概ね18~19世紀に建てられた建物群で、石造りのファサードやアイアンバルコニーなどを備え、クラシックとモダンが融合した端正な都市の景観を形作っていた。街路樹の木蔭で昼食のサンドウィッチを食べていると、私たちに〈Bon appétit(ボナペティ)〉と親し気に声をかけて通り過ぎて行くフランス人もいた。フランス語で「召し上がれ」という意味である。

別の日に訪れたのがローヌ川の東岸のパール・デュー地区にあるポール・ボキューズ市場。リヨン出身の世界的な料理人ポール・ボキューズの名を冠した屋内常設のマルシェ。果物、パン、魚介、チーズ、加工肉、ワインなどの店が並び、マルシェと呼ぶにはいささか高級感があり過ぎるのが残念だったが、そこで片言のフランス語を操りながら、何とか量り売りのチーズを土産に買うことができた。

レ・ピュス・ドュ・カナルというリヨン近郊の蚤の市に行ったのは、今回の旅行の最終日。因みに蚤の市とは、町の広場などで開かれる、古道具や古着、アンティーク品などを販売する露天形式の市場のこと。フランス語ではmarché aux puces(マルシェ・オ・ピュス)と呼ばれる。レ・ピュス・ドュ・カナルはフランスで2番目に大きい蚤の市で、6ヘクタールの敷地に家具、骨董品、装飾品、家具、古着などから食器、カメラ、本、雑貨に至る幅広いジャンルの品々が並び、掘出し物を求めて来場した多くの人で賑わっていた。クラシックカーやオートバイなども出品されていた。

今回の旅行中、どの町や村にも、規模の大小を問わず、地産地消のマルシェが定期的に開かれていた。輪島の朝市などを除いて、日本ではマルシェと呼べるような定期市はめったに見ることはできない。日本には生産者と消費者が出会う場所がほとんど皆無だ。旅行者である私たちは日頃の食材調達を主としてスーパーに依存して過ごしたが、フランス人の間には依然としてマルシェの文化が根強く息づいているように見えた。その根底には、生産者との交流や地域のコミュニティ、本物の食材への志向などをコスパより重視する、フランス人の暮らし方があるのだろう。


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