蚯蚓鳴く往復書簡欠けしところ

「蚯蚓(みみず)鳴く」は、秋の夜に土の中から聞こえるジーという螻蛄(けら)などの鳴き声を、昔の人がミミズの声と取り違えたことに由来する空想的な季語。発声器官を持たないミミズが鳴くことはないが、その声が聞こえるように思うところに、俳諧の趣がある。虚実さだかでないその微かな声に、秋の夜はしんしんと更けてゆく。

掲句は、平成22年8月末に角川学芸出版から発行された『井伏鱒二飯田龍太往復書簡』に収められている往復書簡400余通を順々に読みながら、その中に何通か欠落した書簡があることにそこはかとない関心を覚えての作。親愛と敬愛に満ちた両者の交友を証する書簡の数々を読み耽っていると、自ずから立ち昇ってくる交友の温もりに、私の心もあたたまる心地がした。平成22年作。

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