月明の尾花の湿り手に握る

「尾花(おばな)」は「芒(すすき)」の花穂(かすい)のこと。動物の尾に似ているところからこの名がある。「芒」が葉、茎、花穂の全体を指すのに対し、「尾花」は花穂だけをさす。「芒」は夏から秋にかけて黄金色で箒状の花穂をつける。秋の深まりとともに、花穂は白っぽくなり、晩秋には綿毛をつけた種を風に飛ば す。

掲句は晩秋の頃、夜明け前のまだ明るい月光の中で「尾花」を握ったことを句にしたもの。「尾花」の微かな湿りは、5年前の10月下旬に亡くなった母の手の感触を思い起こさせた。死に近い母の手の、最早握り返さない柔らかい感触は、終生忘れることはできない。令和6年作。

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