フランスはワインの国である。私たちが旅したのは、コート・ダジュールからローヌ・アルプにかけての国土のほんの一部分に過ぎないが、旅中のワインを買う機会、飲む機会を通して、また、葡萄畑を散策するなどして僅かに触れることができたフランスワインの一端に触れてみたい。

フランス国内にはシャンパーニュ、ボルドー、ブルゴーニュ、アルザス、ロワール、ローヌなど多くの一級のワインの産地がある中で、プロヴァンスと言えばロゼワイン。上の写真は、最初に宿泊したニース近郊のホテルで、オーナーからもてなし用に頂いたもの。地元の生産者の名がラベルに大きく記されているのがいかにもフランスらしい。ロゼのサーモンピンクの淡い色合いは、地中海の明るいブルーとよく調和する。暑い最中を出歩いた後、私たちは食事をとりながら冷えたワインを楽しんだ。マティスの画風にも通じる軽快でフルーティなワインだった。
ニース郊外のホテルに数日間滞在していて気付いたことだが、周辺の住人たちは、(特に週末の)夕刻になるとそれぞれの自宅のベランダや庭で、食事を楽しんでいた。南仏の夏の日暮れは遅く、夜10時を過ぎるまで日の暮れる気配がないのだが、そんな中いつまでも賑やかな話声が続く。その卓上には当然ロゼのボトルとワイングラスが置いてあるのだろう。ようやく涼しくなってきた風は潮の香と香しい花の香りを運び、南仏の夏のよろしさを実感させてくれる。ロゼワインは、屋外で草木の匂いを感じ、海を眺めながら楽しむものなのだろう。

鷹の巣村ルシヨンでたまたま立ち寄ったとある店の光景。売り物のワインボトルの並ぶ向こうの窓に、プロヴァンスの田園風景がひらけていた。ここでは結局買わなかったが、ホテルに近い地元のスーパーで赤と白のワインを買い、一本のボトルを4人で3日かけて飲み終わるほどのペースで食事の時に飲んだ。安いワインでもコクのあるしっかりした味わいだった。

プロヴァンスの葡萄畑。このほか鷹の巣村の石造りの家々の壁にも、観賞用に、或いは日除けを兼ねて、葡萄を這わせている光景を度々目にした。 地中海沿岸は、春から秋にかけて雨が少ないため病害を受けにくく、夏は日照に恵まれるなど葡萄栽培に適した気象条件であることを、改めて認識した。もっとも、近年ヨーロッパを襲う熱波が、葡萄栽培にどのような影響があるか、心配ではあるが・・・。

プロヴァンスのホテルに滞在中の一日、私たちはワイナリー巡りをした。やや内陸部に位置し、ニースより暑さが厳しかったから、日の出の頃から車を走らせた。早朝だったため、ワイナリーの多くは門を閉ざしていたが、私たちはジゴンダス(Gigondas)村の店で赤ワインを買い、ボーム・ド・ヴニーズ村でマスカットワイン(白ワイン)を買うことができた。どちらの店でも、カウンターのところで地元のワインを試飲させてくれた。下の写真はその時買ったマスカットワイン(甘口)。ボトルのラベルに、ドメーヌ・デ・ベルナルダンとの生産者名が見える。ローカルな生産者の顔が見えるところが、地産地消のフランスらしいところ。

甘口のマスカットワインは、食前酒として愉しんだ。日本で食前に飲む梅酒のように、その濃厚で芳醇な味わいは、少量でも満足できるものだった。後日飲んだ辛口のマスカットワインのフルーティーで爽やかな味わいも忘れ難い。暑さが厳しく、冷房の効いたホテルの室内で冷えたワインを飲みながら、旅中の英気を養った。