「十月」は暑くもなく寒くもなく過ごしやすい月。月の初めは秋の長雨が続くことがあるが、月の後半は天気も安定し朝晩は気温も下がってくる。野山に紅葉が始まり、稲や果物など農産物が収穫時期を迎える。
掲句は秋が深まるにつれて大気が澄み、くっきりと姿を見せる富岳に、「十月」に対する感慨を重ねた作品。「十月」は極暑の関東平野に住む者にとって、暑さから解放される好季節だ。それまで見えなかった遠い山並みが、克明に姿を現す。加えて、「十月」は、飯田蛇笏の忌日(10月3日)が巡ってくる月でもある。朝の散歩のときに、富士を遠望しながら何気なくできた作品だが、蛇笏に対する遥かなる思いが、この句の背景にあると思っている。令和6年作。