「のれそれ」は穴子の稚魚。関西や四国での古くからの漁師言葉・市場言葉という。かつては、生で酢味噌などととともに食される地場の味覚だったが、最近では関東近辺の鮮魚売り場でも見かけるようになった。透明で細長い姿は、白魚(しらうお)や白子(しらす、イワシ類の稚魚)と似ている。
これらのうち最も古く江戸時代から句に詠まれ、歳時記に掲載されているのは白魚(春季)。また、白子干(白子を茹でて塩干ししたもの)は戦後季語として定着した。一方、「のれそれ」は手元の歳時記には載っていないが、2000年代以降、春の季語として主要な歳時記に掲載されつつあるようである。地方発の食材が季語として認められる一例だろう。
「のれそれ」には柔らかく流動的な語感があり、口の中で溶ける食感とともに春の訪れを感じさせる。四国・関西の地域性・風土性を詠み込む中で、この季語を活かしていけたらいいと思う。