「葭切(よしきり)」はスズメ目ヒタキ科の夏鳥。初夏の頃南方から飛来して全国の水辺の葦原で営巣する。水辺の葦に止まって「ぎょっぎょっ」と大きな声で鳴くので「行々子(ぎょうぎょうし)」との別名もある。
掲句は越谷の元荒川周辺を訪れたときの作品。越谷は、加藤楸邨の俳人としての出発点となった地で、古利根や元荒川など水辺の多い土地柄でもある。度々流域を替えた荒川の蛇行の跡が、池になって残っていたりする。夏の烈日を遮るもののない水辺の葦原で、葭切が頻りに鳴いていた。坂東の暴れ川の名残がそこにあった。平成18年作。『春霙』所収。