ヨーロッパでは4月1日をオール・フールズ・デイといい、この日に限り罪のない嘘で人をかついだりすることが許される風習がある。この日に騙された人をエープリルフールという。歳時記に載っている「四月馬鹿」はその日本語訳。「四月馬鹿」といえば広くその日のこととして俳句に詠まれる。大正年間に我が国に伝わってきた。11月1日の万聖節に対して「万愚節(ばんぐせつ)」ともいう。
手元の歳時記には、
万愚節半日あまし三鬼逝く 波郷
など、多くの例句が掲載されている。この句は昭和37年4月1日に逝去した西東三鬼を追悼した作品。当時定着したばかりの「万愚節」という季語を用いた即吟だろう。三鬼という人の人柄や句風も感じられ、追悼句としては上乗の出来。石田波郷という人の作句に対する瞬発力が如実に表れている一句と思う。
上記の句の他にはめぼしい句は見当たらない。どの句も、「四月馬鹿」「万愚節」に日常の些事を取り合わせているのだが、意味ありげな表情を持つこの季語との間合いの取り方に苦労しているように見える。いずれも、意味が分かりすぎて底の浅い句か、淡々と詠んでいて面白みも味わいも薄い句である。
西洋の風習が日本に入ってきて日本人の生活に溶け込んだものの中には、「クリスマス」「ハロウィーン」「バレンタインデー」など他にもあるが、今後俳句に詠み込むにはひと工夫もふた工夫も必要だということだろう。